「暗いところで文字を読むと目が悪くなる」
という話を聞いたことはあるでしょうか。多くの人が一度は言われたことがあるのではないでしょうか。
この話、あなたは正しいと思いますか?
そもそも一体どういった経緯でこういった説が唱えられるようになったのでしょうか。その起源となったのは「目が悪い人ほど自宅の照明が暗い家庭で育っている」という調査結果だと言われています。それゆえに、暗い環境で文字を読んだりすると目が悪くなると言われるようになったのです。一見正しい解釈であるように思われますが、本当にそうなのでしょうか。
現在では、「子どもの視力はほぼほぼ遺伝で決まる」というのが定説なようで、「暗いところで文字を読むと目が悪くなる」という説は間違いであるという考えが主流になってきています。では、「目が悪い人ほど自宅の照明が暗い家庭で育っている」という調査結果に対する正しい解釈はどういったものになるのでしょうか。現在では、「親の視力が悪い家庭は、遺伝的に子どもも視力が悪くなることが多い。また親の視力が悪い場合、家が明るくても暗くても(そもそもちゃんと見えないため)文字の読み易さに変わりはないので、家が暗くなったとしてもたいして不快だとは思わない。ゆえに、そういった家庭では自宅の照明が暗い傾向にあり、目が悪い人ほど自宅の照明が暗い家庭で育っているという調査結果が生じた。」という解釈が正しいものであると言われています。
このように、世間的には常識だと思われていることであったとしても、実は間違いであるということは往々にしてあります。
「酒は百薬の長である」という言葉を聞いたことはあるでしょうか。酒はどんな薬よりも健康に良いということを表す諺です。これを裏付けるものとして「お酒をたくさん飲む人ほど健康である」という調査結果があります。さて、これも一見「お酒を飲むほど健康になる」という解釈に繋がりそうな気もしますが、果たしてこれは正しいのでしょうか。
よく考えてみると、一度病気をしてしまった人や健康でない人は、お酒を飲めないもしくは健康に気を遣いお酒を控えているということが多く、その結果として「健康な人ほどお酒を飲む量が多く、健康でない人ほどお酒を飲む量が少ない」という事象が観察されているだけであって、必ずしもお酒を飲むほど健康になるという解釈を導くものではないということが分かります。これも先ほどの例と同じように、間違った解釈が生んだ迷信であると言えます。(※継続的なアルコール摂取は肝機能の低下に繋がりますので、お酒はほどほどにしましょう。)
勉強を教える仕事をしていると、しばしば生徒から「なぜ勉強しなければならないのか」という質問を受けることがありますが、これに対してどう答えるのがベストかという問題は、実は自分の中での永遠のテーマだったりします。その質問に対する答えの一つとして、最近私がこれかなぁと思っているのが、
「世の中に流布する様々な情報について、自分の頭でその正誤を判断できるようになるため」
というものです。前述のように、世の中には嘘か本当か分からないような情報が溢れており、常識だと思われていることでも実は誤りであったということは少なからずあります。さらには、そのような嘘の情報を信じてしまったがゆえに損をしてしまうということも往々にしてあります。「○○は健康に良い」といった情報も世の中には溢れかえっていますが、果たしてそれは本当に全て正しい情報なのでしょうか。そういった類の情報についてもきちんとしたエビデンスに基づいていないものが結構多く、それを信じてしまったがゆえに偏食に陥り健康を害してしまう、あるいは無駄な出費が増えることで金銭的に損をしてしまうといった事例が、実は頻発しています。
このような事態を避けるためにも、我々は一つ一つの情報について、それが正しい情報なのか誤った情報なのかを自分自身の力で判断出来るようにならなければなりません。そのためには、正誤を判断するための基準となる基本的な知識・知り得た情報から正誤を判断するための論理的な思考力が必要となります。勉強は、そういった個々人の中の正誤・善悪を判断するための力を磨くためにもしなければならない、と私は考えています。
長くなってしまいましたが、中高生の皆さんにはこれから世の中で生きていくにあたって損をしないためにも、勉強を通じて様々な知識を身に付け、論理的思考力を磨いていってもらいたいと私は考えています。さらには、一つ一つの情報について「それは本当に正しい情報なのか?」という風に批判的に捉え、その正誤を自分の中の基準で判断出来るようになってもらいたいと思います。
初めに2つの例を挙げて私はこの記事を書き始めましたが、そこで私が行った説明についても本当は正しくないという可能性だってあります。(もちろん、自分の中で正しいと判断したので記事には書いたのですが。)
皆さんも、「本当に正しいのか?」と批判的に捉え、どういった解釈が正しいのか、自分なりに考えてみてください。